『インスマウスの影(The Shadow over Innsmouth)』のゼッド・アレン(Zadok Allen)についての解説

ゼッド・アレンは、インスマウスに住む92歳の老人である。
注意
読者の体験を損なう可能性があるため、本解説を読む前に先に物語を読んでおくことを強く推奨する。
書籍の表紙以外に掲載しているイラストはあくまで本ブログによる創作物であり、公式に発表されているものではない点に注意して頂きたい。
語り部としての役割
作中では、「よくしゃべる酔っぱらいの老人」として町の外れをさまよっている姿で描写される。
町の住人の中では数少ない、異様な“インスマウス顔”を持たない存在として主人公の関心を惹く。
- 年齢:92歳(1835年生まれ)
- 外見:しわだらけの顔、よれよれの服装、目は弱っており、酒に依存している
- 性格:話好きで情緒的、恐怖と酔いの間を揺れ動く精神状態
ゼッド・アレンは、主人公に対して町の衰退の歴史、オーベッド・マーシュ船長の異教との関係、深きものどもとの契約、そして人間と異種族の交配による血の混交について詳細に語る。
彼の証言は、主人公がインスマウスの表面下にある恐怖に初めて触れる契機となり、物語の方向性を決定づける語りである。
彼が語る内容は、以下に示す。
- 19世紀初頭、オーベッド・マーシュが南洋で奇妙な儀式を目撃し、深きものどもとの契約を持ち帰ったこと
- インスマウスで秘密教団が広まり、地元教会に取って代わったこと
- 生贄と引き換えに黄金と豊漁がもたらされ、異様な出産や容貌の子どもたちが増えたこと
- 村の人々が次第に“海へ帰っていく”こと
彼はこのような証言を、酒の力を借りてしか語れない。
素面のときは恐怖で口をつぐんでしまうが、アルコールが入ると長々と語り続ける。
これはラヴクラフトに典型的な「酔い」が真実を引き出す装置として使われている例である。
最後
物語の後半で、主人公はゼッド・アレンが行方不明になったと聞かされる。
インスマウスの住民たちが、彼が「しゃべりすぎた」ことに怒り、何らかの処分を下したことはほぼ確実である。
作中では直接的な描写は避けられているが、証言者の排除という形で、彼の死は町の恐怖と閉鎖性を強調する要素となっている。