小説「夜明けのロボット」
この作品から現時点でKindle日本語版が発売されておらず、何十年ぶりだろうか、図書館で借りてきた。主人公は前2作から続いて、イライジャ・ベイリ。ちなみに早川書房からハードカバーと上下巻に分かれた文庫本の2つが販売されている。
あらすじ
前作のソラリアでの事件から数年後、イライジャ・ベイリは息子ベントリイ・ベイリなどの若者とドームの外で惑星開拓の訓練のため、野外作業を行っていた。作業の途中で司法次官ラビニア・デマチェクに呼び出され、オーロラで旧知のハン・ファストルフ博士が窮地に陥っていることを聞かされる。ファストルフ博士はオーロラ政府でも1,2を争う実力者であり、また地球にとっても友好的で新しい惑星へと旅立つ地球の開拓者の強力な味方でもある。彼を失うことは地球にとって一大事である。彼を助けに行くように命じられるイライジャだったが、彼が窮地に陥っている原因の事件とは、彼がロボットであるジャンダー・パネルを殺害したことだった。
登場人物
- イライジャ・ベイリ:主人公でニューヨーク市警の刑事。
- R・ダニール・オリヴァー:ハン・ファストルフ博士が生み出した精巧な人型ロボットで今作でもイライジャのパートナーを務める。
- ハン・ファストルフ:宇宙国家オーロラのロボット工学博士で政界でも屈指の実力者。新地球派。
- ジスカルド:ダニールと同様にファストルフ博士によって作られた非人間型ロボット。
- ジャンダー・パネル:ダニールと同型のファストルフ博士に作られたロボットで何らかの原因で精神機能が永久的に停止した。
- グレディア・デルマー:前作の最後にソラリアからオーロラへ移民してきた未亡人。
- ケルドン・アマディロ:ファストルフ博士と敵対するロボット工学博士で反地球派。
- ヴァジリア・ファストルフ:ファストルフ博士の娘で、父親に対して憎悪している。
- サンティリクス・グレミオニス:グレディアに好意を寄せる理髪師。
- ベントリイ・ベイリ:イライジャの息子。
- ラビニア・デマチェク:司法次官でアルバート・ミニム(前作の司法次官)の部下。
感想
今作は人間同士の性的関係(主にグレイディア中心の)が頻繁に取り沙汰されており、オーロラ特有の性的な風習、ロボットとのセックス、近親相姦(未遂)、不倫と人によっては賛否が分かれるかもしれない。
ソラリアよりはオーロラは社交的ではあるものの、家族関係は希薄で離婚が割と軽い理由で行われる。またソラリアと同様に子供を親が育てることはなく、全て保育所に任せるのが当たり前である。
いずれ未来で外部の保育所による教育の方が優れているとか、生みの親が子供を育てる知識や技能、気力を持ち合わせていないなら、保育や教育を全て外注するのが当たり前になるかもしれない。里親が立派に養子を育てられるように、実の親が育てる必要は果たしてあるのか。もちろん、子供は本当の親を知りたいと思うかもしれないが、里親に育てられるのが当たり前の世界なら、さほど気にならないかもしれない。昨今の真夏で車に子供を置き去りにして、パチンコに行ったり飲みに行く親の話を聞くと、そんなに遠くない未来で需要はありそう。
あと気になったのはオーロラ人をを含む宇宙人の革新について。寿命が400歳くらい長くなったのは良いが、新しい惑星へ開拓者として行く危険を冒せなくなった。短い寿命だからこそ、果敢に危険と向き合い、懸命に生きる地球人に対して、反ファストルフ派が危機感を持っていた。開拓者としてイライジャを中心に地球人が飛び出していこうとする本作で、死ぬまでの間に人は何を成しとげられるのかを問われているように感じだ。
心理歴史学というファウンデーションシリーズの核となるキーワードにも触れられており、本作から繋がりが見え隠れし始めている。言及したのはファストルフ博士だったが、彼は実用の段階には至らず、他の誰にも実用出来ないとさえ断言した。奇しくも同じ言葉をハリ・セルダンが使い、その生涯を掛けて実用化をしたのは、この作品のファンタジーなのだろう。良い作品に共通することは全編を通して確かなリアリティーがあり、そして少しのファンタジー要素で作品の魅力を飛躍的に上げている。
以下は本書を未読の方は閲覧を禁ずる。1983年に刊行されて今さらネタバレもないと思うが、知らずに読んだ方が絶対面白いと思われるので読まない方が絶対に良い。
奥さんと19歳になる息子さんがいるのに、完全に不倫じゃん。
「英雄色を好む」ということわざもあるノデ。誰が言ったか言わなかったか「不倫は文化」という言葉もありマス。
それにあくまで地球の文化的には駄目デモ、オーロラ的には不倫という概念はなさそうデス。
それでも奥さんと息子さんが可哀想だわ。