クトゥルフ神話の架空都市「アーカム(Arkham)」について

以下に、ラヴクラフトの各作品に登場する架空都市「アーカム」について解説する。
注意
読者の体験を損なう可能性があるため、本解説を読む前に先に物語を読んでおくことを強く推奨する。
書籍の表紙以外に掲載しているイラストはあくまで本ブログによる創作物であり、公式に発表されているものではない点に注意して頂きたい。
『インスマウスの影』におけるアーカム
『インスマウスの影』では、アーカムは物語の終盤で主人公が避難し、政府当局へ密告を行う都市として登場する。
主人公はインスマウスから逃走し、近隣のロウレイを経由して夜行列車でアーカムへ到着する。
その翌日、アーカムにて政府関係者にインスマウスの状況を報告し、後の軍事行動(潜水艦による暗礁爆撃と住民の連行)に発展する。
アーカムは、この作品において文明と秩序の象徴であり、怪異と隔絶された常識的世界を代表している。
インスマウスという「閉ざされた退廃的空間」に対する「開かれた理性的中心地」としての対比構造が明確である。
『壁のなかの鼠』におけるアーカム
『壁のなかの鼠』において、アーカムは直接の舞台とはならないが、作品内において語り手が語る新イングランド地方の文化的中心地の一つとして意識されている。
作中の語り手は祖先の館のある地(イグザム地方)に滞在しており、現地のノリス大尉や他の好古家たちと接触しているが、その中でアーカムや他の学術的都市が対比的に暗示される。
アーカムは、この文脈では都市的知性・近代的合理性の代表的象徴であり、語り手の持つ文化的自負と結びつく都市である。
『闇に囁くもの』におけるアーカム
『闇に囁くもの』において、アーカムは非常に重要な役割を担っている。
主人公アルバート・N・ウィルマースはアーカムにあるミスカトニック大学の教授であり、物語全体が彼の学術的関心と書簡のやり取りによって進行する。
アーカムはその知識的基盤として、未知の存在に対する人類の知的対抗手段の中心地として位置づけられる。
さらに、アーカムは教授にとっての「帰還可能な安全圏」であり、彼がヴァーモントで遭遇した事象を理性の世界へ持ち帰り、なおかつ説明不能なままにするという二重性を持つ。
ラヴクラフト作品全体においても、アーカムは「知の都市」であると同時に、「知ってはならぬものの封印を守る都市」でもある。
総合考察
アーカムは、H.P.ラヴクラフトによる創作の中核都市であり、実在のマサチューセッツ州サレムをモデルとしている。
多くの作品において、アーカムは理性・学問・文明の象徴であると同時に、クトゥルフ神話世界への知的入口ともなる。
アーカムにはミスカトニック大学が存在し、そこにはネクロノミコンをはじめとする禁断の書物が保管されている。
このように、アーカムはラヴクラフト的宇宙観の中で「人間の理性がどこまで届くか」「それを超えたときに何が起こるか」を示すための、架空の都市装置として機能しているのである。