中平正彦版の漫画ストリートファイター2の感想でも書こう
今や格闘ゲームの代名詞ともなったストリートファイター2、略してスト2。
ヨガは手が伸びたり火を吹いたりする不思議な技、中国女性と言えばチャイナドレス、ブラジルの奥地には電気を発する人間が暮らしている・・・と、若かりし我々に、様々な固定観念を与えてくれた。
その人気は未だに根強く、最新作であるスト4は国内、海外問わず、大会が盛んに行われている。
今日はその中でも、中平正彦氏が描いた、漫画版ストリートファイター2三部作の感想を述べる。
1.中平正彦氏の作品
そもそも格闘ゲームはアーケード発の作品が大半であり、原作ありきや萌えキャラ売りを目的とした作品を除けば、世界観を語る物語はオマケ程度でしかない。
客の回転率を優先する店側も、あくまで対戦をメインとした客側も、ストーリーを語るための膨大なテキストは求められてなかったのだろう。
また、企画及びキャラクターデザインを担当した安田朗氏も、
ゲームの『戦い』の部分にすべてのパワーを注ぎたかったから
『ゲーム』の部分の他にストーリーはいらなかったから
ゲーメストムックVol.17『カプコンイラストレーションズ カプコンイラスト作品集』 新声社 1996年 P.11
として、あえてストーリー部分は切り捨てている。
ゆえにそれらは、メディア展開という形で、映画、アニメや漫画、小説といったところで、補われていくことになった。
そして今回紹介する、中平正彦氏のストリートファイター2の作品もその一つで、彼のストリートファイターに関する作品は3(+1)つ。
新声社版と集英社版の2種類が存在し、新声社版は既に絶版。
というのも、ゲーム専門誌ゲーメストで名をはせた新声社は、1999年に倒産しており、そちらは入手困難となっている。
集英社でもオススメしたいのが、コンビニコミック版である。
ただ廉価版と侮ることなかれ、実は「さくらがんばる!」についてはコンビニ版の方が、同じく集英社より発売された豪華な完全版に比べ、番外編のエピソードをしっかりと網羅しているのだ(同人誌に収録されていた「さくらがんばる!最終章・卒業」は含まず。)
2.ストリートファイターZERO
「ストリートファイターZERO」では、時系列としては初代とスト2の間として描かれている。
リュウがサガットを撃破した後から始まっており、「真の格闘家」と「殺意の波動」の間で揺れ動いている。
シリーズ通して共通である、リュウの真面目で謙虚であり、また強い求道心が、随所に感じられる。
春麗「タイの一件で破れたのつくろっておいたわよ 道着ぐらいマメに洗いなよホント! 臭いったらもー」
リュウ「なんだって洗ったのか!?」
リュウ「この道着はかつて俺と闘った人々の技を無数に受けてきたんだ・・・ 人それぞれ様々な想いが込められた技を・・・」
リュウ「それを洗い落とすなんて礼を欠くことと思わなかったのか?」
春麗「わない!!!」
中平正彦 「ストリートファイターZERO」 集英社 2007年 P.77
また成田空港に、帰国した際には税関で、
職員「住所不定・・・職業・・・格闘家?帰国の理由は?」
リュウ「俺が子供だった頃師匠を倒した男にもう一度会うためだ!」
職員「別室に案内して」
リュウ「えッ!?何故だ!? 待ってくれ 俺には闘わなくてはいけない相手が居るんだ!!」
ケン「・・・・・・ホントバカだな あいつ・・・」
中平正彦 「ストリートファイターZERO」 集英社 2007年 P.240
とあるように、真面目すぎてケンに馬鹿にされる一面もある。
むしろその天然すぎる剛直ゆえに、彼を好んで選んでいるプレイヤーも多いはずだ。
ちなみに原作ゲームのZEROに登場したキャラクターは、なんと全員登場しており、それでいて破綻していないから驚いた。
終盤では、さくらも登場しており、早々ベガに一方的に殴られ、蹴られ、踏みつけられると散々な目に遭うものの、意外と?無事だったりして、既に一般人離れした強さを感じさせられる。
3.さくらがんばる!
続く「さくらがんばる!」では、前作のリュウの姿に憧れたさくらが、ダンを師事?しつつ、ストリートファイターとして活動しているところから始まる。
マキやケン、元、ザンギエフと、リュウと何らかの形を知っている、関わっている者たちが、立ちはだかっていく。
ただケンは最初に会った時に、
ケン「おいおいおい!!『あいつ』みたいなナリして一体何だぁ!? 『あいつ』に妹が居るなんて聞いたこともないし・・・ まままままさか娘・・・なんてことは・・・ いやでもああいうタイプてな案外・・・」
中平正彦 「さくらがんばる!」 集英社 2007年 P.136
などと同様を隠しきれていない様子。
確かに作品が違うものの、「龍虎の拳」のサカザキ姉弟を彷彿させるくらい、リュウとさくらも似てる。
そのさくらが、リュウの足跡を追い掛けて、その過程で彼女自身も「真の格闘家」へと近づいていくのが、本作の見所でもある。
番外編では「かりんお嬢様 がんばる」という、かりんが主役の話が始まる。
かりんはこの漫画から、本家ストリートファイターZERO3に参戦しており、逆輸入されたレアなケースだと言える。
もう一つの番外編では、まさかのSNKから草薙京が参戦し、さくらに勝負を挑む。
カプエス2的な展開だが、まさに漫画だから実現したのだろう。
春日野さくらの設定が「さくらがんばる!」に全て詰まっており、まさにさくらを知るためには必読と言っても過言ではない。
特にスト4では、ダンとの関係、コスチュームでジャージが用意されている点などは、本作を読めばより一層深く楽しめるだろう。
4.RYU FINAL
再び主人公をリュウに戻した作品で、ケンの息子が成長している姿から、おそらく「ストリートファイターZERO」より十数年後の話である。
タイトル通り、未だに「真の格闘家」へと、模索を続けるリュウの最終章となった作品である。
ZEROでは登場しなかったオロ、ヒューゴ&ポイズン、ダッドリー、ユン&ヤンなど、幅広いキャラが登場しつつも、サガットとの再戦、そして豪鬼との決着をつける。
3部作の完結編という位置付けであるが、未だ終わることのないストリートファイターシリーズの最終回としても、読み応えはあった。
ちなみに本作で登場し重要なキーにもなっている技、「風の拳」はウルトラストリートファイター4のオメガエディションで、まさかの登場となった。
余談だが、本作でも描かれている通り、
オロ「・・・のうリュウよ 最近は男が女子のナリをするのが流行しちょるんかの――?」
リュウ「いやそういう訳では」
ポイズン「ぐおお!?なぜ一発で見破れる!?」
中平正彦 「RYU FINAL 」集英社 2007年 P.82
と、衝撃的な事実が知らされる。まじか( ゚д゚ )
ファイルファイトでは敵役だったため、アメリカでは女性を殴るのはよくないとのことで、急遽設定を変更したとされる。
恐るべし、大人の事情。
5.感想
最後に私的な感想を。
ゲームで見ることが出来なかった、登場キャラクターの新たな一面を垣間見るというのもいいのだけど、本シリーズの見所は戦いにおいての、キャラの動きだろう。
脚線美はもちろん、そこから生まれる躍動感は、特筆すべきものがある。
漫画という静止した中で、動きを表現するのは難しいが、氏の漫画ではそれを表現しきっている。
スト4で格ゲーブームが再び巻き起こっている(はず)最中、もしキャラクターに対して興味が沸いたなら、一度読んでみることをオススメする。