「中世ヨーロッパ ファクトとフィクション」を読んで

Amazon.co.jp: 中世ヨーロッパ 電子書籍: ウィンストン・ブラック, 内川勇太, 成川岳大, 仲田公輔, 梶原洋一, 白川太郎, 三浦麻美, 前田星, 加賀沙亜羅, 大貫俊夫: Kindleストア

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内容

本書では以下の11のテーマをもとに、中世ヨーロッパに関する広く信じられている誤解を検証している。

  1. 中世は暗黒時代だった
  2. 中世の人々は地球は平らだと思っていた
  3. 農民は風呂に入ったことがなく、腐った肉を食べていた
  4. 人々は紀元千年を恐れていた
  5. 中世の戦争は馬に乗った騎士が戦っていた
  6. 中世の教会は科学を抑圧していた
  7. 一二一二年、何千人もの子どもたちが十字軍遠征に出立し、そして死んだ
  8. ヨハンナという名の女教皇がいた
  9. 中世の医学は迷信にすぎなかった
  10. 中世の人々は魔女を信じ、火あぶりにした
  11. ペスト医師のマスクと「バラのまわりを輪になって」は黒死病から生まれた

それぞれのテーマごとに、

  • 人々が起きたと思っていること
  • 一般的に流布した物語
  • 実際に起きたこと

という順番で説明している。

一次史料については誤解の元になった原因と真実を示す反証の双方で引用し、本書の信ぴょう性を裏付けている。

感想

本書は、中世ヨーロッパに関する誤解を解き明かし、一次史料を基に「何が本当だったのか」を検証する興味深い内容だった。

中世の宗教や生活に関する事前知識がなくても、分かりやすく読める。

ただ、いくつか気になった点がある。

まず、欧米と日本では中世ヨーロッパに対する思い込みに差があるように感じた。

「十字軍が子供中心で遠征に出た」や「紀元千年を恐れた」などの話は、日本ではあまり馴染みがない。

西洋史が重視される欧米と、日本史・普遍的な世界史が中心の日本では、歴史教育の違いが影響しているのかもしれない。

また、本書が取り上げた誤解の中には、やや極端に感じられるものもあった。

「中世の医学は迷信にすぎなかった」とあるが、中世の医療がすべて非科学的だったと考える人は多くないだろう。

実際には、中世にも外科手術やハーブ療法などの有効な治療法が存在していた。

同様に、「農民は風呂に入ったことがなく、腐った肉を食べていた」というテーマも、誇張されている印象を受けた。

行水くらいはしていただろうし、食糧難の際には腐った肉を食べざるを得なかったことがあったとしても、それが常態だったとは考えにくい。

もう一つ、一次史料の信頼性についても慎重に考える必要がある。

史料を残した人々が必ずしも事実のみを記録したとは限らず、政治的・宗教的な先入観があるかもしれない。

そもそも、本書が指摘する「誤解の原因」には、一部の史料が偏って伝えられたことも影響している。

歴史を正確に知ることが難しいという点において、本書のアプローチは有意義だが、「どの史料をどのように解釈すべきか?」という問題は依然として残る。

歴史の理解には、一次史料の解釈と誤解の検証が不可欠であることを再認識させられる一冊だった。

過去の出来事をどう捉え、事実とされるものをどのように検証するか、その重要性を改めて考えさせられた。

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