映画「空母いぶき」

映画『空母いぶき』公式サイト

Amazon Prime Videoで出てたので見てみた。

予告編

『空母いぶき』第二弾予告映像【30秒】(5月24日 全国ロードショー)

あらすじ

そう遠くない未来で、フィリピンより少し東の島国で東亜連邦と名乗る国家共同体が誕生し、東アジア海域における領土争いは激化していた。

国籍不明の漁船20隻が、初島沖のEEZから接続水域に向かっていることを確認し、海上保安庁の巡視船「くろしま」が現場へ向かった。しかし漁船群から突然発砲し、負傷者が出た。漁船の乗員らは初島に上陸し、「くろしま」の海上保安官は拘束されてしまった。島には国旗が掲げられ、事実上占領されてしまった。海上自衛隊は小笠原諸島の南西区域で訓練中の空母いぶきを含む第5護衛隊群を急遽、初島に向かわせることにした。

登場兵器

自衛隊

  • 航空機搭載型護衛艦「いぶき」
  • 「いぶき」艦載機 F-35 *15機
  • 護衛艦「あしたか」
  • 護衛艦「いそかぜ」
  • 護衛艦「はつゆき」
  • 護衛艦「しらゆき」
  • 潜水艦「はやしお」

東亜連邦軍

感想

架空の国「東亜連邦」と架空の島「初島」

東亜連邦と初島の位置関係

まず中国に配慮してか、敵国が中国から東亜連邦という架空の国へと変更された。また占領された島も尖閣諸島から初島というこれも存在しない島に変えられた。ちなみに初島は静岡県熱海市にちゃんと島として実在している。ややっこしい。

そして東亜連邦とは直接の外交ルートを持たず、第三国を経由しての交渉しか出来ない。具体的な東亜連邦国内の描写もなく、もはや国家ではなくただのテロリスト集団なのでは?民族主義とか主張しているそうだが、どこの民族かも不明。ファンタジーというよりは妄想に近い。

初島 – Wikipedia

「いぶき」へのミサイル直撃

軍事オタクではないので詳しくはないが、かわぐちかいじ先生の漫画「ジパング」でも言っていた通り、現代の護衛艦は装甲が薄く、艦砲やミサイルの一発の被弾も致命傷になるそうだ。しかし劇中でチャフCIWSによる迎撃に失敗し一発着弾してしまうのだが、被害は航空機用エレベーターが使用不可(後に応急修理完了)になる程度のものだった。あまりにも被害が少なすぎるのではないか。

戦闘シーン

微妙。怪獣映画かと思った。海外映画に比べると出来は悪い。昔の邦画よりはかなりマシにはなっているのだろう。

「いぶき」艦長秋津の指揮

  • 「我が国の主権を侵そうとする者に対して、正面から立ち向かう覚悟だ。」
  • 「力でしか分からないのなら、力で知らしめる。防衛出動とはその力の事だ。」
  • 「迷ったら撃て。」

上記の通り、割と厳しい言動を行っているが、敵駆逐艦との遭遇戦では何故か対艦ミサイルであるハープーンを使わず、副長の進言を受けて護衛艦「いそかぜ」を主砲の射程距離まで接近させて、主砲による無力化を指示する。敵は対艦ミサイルで、護衛艦「いそかぜ」が大破する可能性があったにも関わらず、護衛艦搭乗員の命を危険に晒した。

また潜水艦との交戦で、護衛艦「はつゆき」が航行不能になり、護衛艦「しらゆき」が救助に現場に残らなくてはならなくなった。また潜水艦「はやしお」も敵の潜水艦に体当たりしたため、損傷し自力で呉に帰投することになった。

よって護衛艦「あしたか」、「いそかぜ」、そして空母「いぶき」の3艦で初島付近にいる敵空母護衛艦群と交戦することになった。ただ空母自身は戦闘能力が低く、そのために多数の護衛艦によって守られているはずだが、それだけ多くの護衛艦を失っても、艦船数や艦載機数で負けている敵空母護衛艦群と交戦する判断は、ただ無謀としか思えない。味方の増援を待つなどの選択肢を考慮した場面が一切ない。

その後、敵空母護衛艦群との交戦時では、制空権を取られて守勢に回りつつあり、その後出現した潜水艦群に対しては完全に無防備に近い状態だった。現れた潜水艦群が国連でなく敵軍のものなら、全滅していた可能性は十分にあった。

原作での秋津艦長は有能だったはずだが、実写映画だと言動と行動が食い違っており、かなり無能になっている。とにかく味方である自衛隊員の命を軽率に扱っている場面が目立つ。

女性記者の動画流出

取材のため搭乗していた若い女性記者が、「はつゆき」の炎上している動画を外部へ送信して公開されて、国内で大騒ぎになる。当然、艦の被害状況を無断で公開したのだから、完全な機密情報の流出であり、また護衛艦の被害状況は敵側に利用される可能性が高い。

艦内に留めて情報流出を容認した秋津の判断が、最終的には世界からの支持を得て、良かったように描かれている。しかし現場機器管理能力としては最低であり、それに対する説明もなく結果論でしかない。

また女性記者は典型的なLove&Peaceで、自分の行動によって生じる可能性を考えて行動しない。想像力が欠如しており、頭空っぽの馬鹿としか言いようがない。ヒロインのようなポジションにいるが、とにかく不快でしかない。

敵兵の命の尊重

近距離の敵戦闘機に対して、撃墜命令を出したのにも関わらず、敵パイロットの命を失うことを案じて、具申している。そんな悠長な議論をしている場合かと。

また敵潜水艦に対して魚雷ではなく、体当たりによって攻撃を阻止する場面がある。ただ搭乗員をいたずらに危険に晒しただけの行為なのでは?敵の搭乗員の命を守るという使命感が働いたとの描写があるが、敵潜水艦は魚雷を気兼ねなくばらまいており、そのような判断の迷いは味方の護衛艦搭乗員の命をも軽視しているとも言える。

敵軍は最初から助走つきの全力投球で殺しに来ているのに、劇中の自衛隊員はとにかく敵兵を極力殺さないように議論をする。果たしてこれが現実に起きた際に行われるのだろうか。そんなわけないだろう。日本の警官ですら、最終的に発砲は認められているというのに。

相手の命を安易に奪って良いものでもない。けれども味方が危険な状況で、各人が指揮系統に従わずスタンドプレイをしている状況にゾッとした。

無能さが強調される海上自衛隊員

捕まえた敵パイロットが担架で運ばれている最中に自衛隊員から拳銃を奪い、もみ合いとなって味方のパイロットを射殺する。なぜ、敵兵を拘束していなかったのか。現実の自衛隊員の方はこれを見てどう思うのだろう。

その後、秋津艦長がやって来て敵兵に対して「海水は冷たかっただろう」、「今日はクリスマスイブなのにな」など慰めているシーンは最悪。なくなったパイロットの奥さんと娘さんに同じ言葉が果たして言えるのだろうか。これを女性記者が再び動画を撮影し、全世界へ配信するのだが、この映画全体で肯定的にこの出来事を捉えているのが気持ち悪すぎて吐き気がする。

国連軍の魚雷による威嚇での停戦

そんな停戦の仕方があるのかと知らなかった。どこの未開の世界の話なんだろうか。停戦するなら何故、直接総理大臣からすぐに連絡がいかなかったのか。

東亜連邦の初島からの撤退

一度占領した島から簡単に撤退する訳がない。それに対する説明もない。ライトノベル並のご都合主義で、リアリティを追求した原作漫画を愚弄する行為だろう。

コンビニでのやり取り

店長が店員を見た目で差別するクソ野郎。日本の日常風景を描きたかったのだろうが、割と意味不明になっている。

護衛艦「いそかぜ」の艦長の関西弁

関西弁で慌てている様子は寒いしスベってる感が強い。何でも関西弁で喋れば、面白いと思っているのだろうか。

総論

リアリティの欠如が激しく、原作とは似て非なるモノ。全く見る価値はなく、2時間返せと言いたい。中国に配慮して公開したので、どんな内容になったかと気になっていたが、中国云々以前の問題だった。

何をどうすればあれほど優れた原作を元に、こんなに酷い映画を作れるのか。カレーに色が似ているからと言って、ウンコを突っ込んだレベルで酷い。俳優の無駄遣い。ゴミ。カス。産業廃棄物。

もし弁解する立場で考えるとすれば、この映画のようなことをすれば「日本は滅びる」という啓発、つまりアンチテーゼが目的なら、一考する価値はあるかもしれない。つまり日本の取るべき事は「先制攻撃」、「徹底的な敵艦船の殲滅」、「情報統制の徹底」である。なるほど、これなら分かる。

空母「いぶき」が気になった人は原作漫画を読もう。まず中国が漁船に偽装した工作員を尖閣諸島に送り込み国旗を立てるという事件から取り上げられており、空母「いぶき」が誕生する経緯が丁寧に描かれている。総理大臣も実写映画のような現実を模した優柔不断なキャラクターではない。尖閣諸島を発端とする危機に基づいた、確かな戦略を持っている指導者である。映画と全く内容が違うことに驚かされるだろう。

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余談

Amazonのレビュー

Amazonのレビューは何故か良い。大量のサクラを雇っているのか、はたまた違う映画を見たのか、何も考えずに映画を見ている人が多いのか。ただレビューを見る限りは、否定的な意見が大半を占めており、それが圧倒的に支持されている。

やっぱり、敵の兵士でも殺さないようにするのは大切なことじゃないかな。戦争自体悪いことだし、平和的に解決するのが一番だと思うわ。

原作では兵器の性能差がかなりあるノデ、それが可能な場面がありまシタ。映画ではそういった説明や描写が乏しかったのが良くなかったデス。

確かに相手の東亜連邦の政府の人は登場してないし、向こうの兵士も1人だけしか出てこなかったね。相手のことは分からないことだらけだわ。

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