『インスマウスの影(The Shadow over Innsmouth)』のジョー・サージェント(Joe Sargent)についての解説

ジョー・サージェントは、インスマウスとアーカムを結ぶ唯一の公共交通機関である「バスの運転手」である。
注意
読者の体験を損なう可能性があるため、本解説を読む前に先に物語を読んでおくことを強く推奨する。
書籍の表紙以外に掲載しているイラストはあくまで本ブログによる創作物であり、公式に発表されているものではない点に注意して頂きたい。
解説
彼は老朽化したインスマウスの町の中で、唯一明確に名前が示される住人であり、町の外と内をつなぐ存在でもある。
主人公がインスマウスへ向かう際、町の住民たちはこのバスに乗ることを避け、「あれは気持ちが悪い」「運転手もおかしい」と語る。
つまり、サージェントは町の異常性が最も目立つ「動く看板」のような存在である。
作中で主人公は、ジョー・サージェントの容姿に強い違和感を抱く。
彼の顔は、「奇妙なほど滑らかで、生気に欠け、湿った感じがある」と形容されており、以下のような特徴が描写されている。
- 目は大きく、瞬きをほとんどしない
- 唇は厚く、だらしなく開きがち
- 首が異様に太く、あごの境界が曖昧
- 肌は灰色がかっていて湿っているように見える
- 顔の筋肉の動きが乏しく、「のっぺり」とした表情
これらの特徴は、深きものども(Deep Ones)との混血児に共通する「変異の途中段階」の表れである。
つまり、彼はすでに人間性をある程度失いかけており、やがては海へ帰っていく運命にある存在と見なされる。
ジョー・サージェントは、物語の中盤において主人公を町に送り届け、再び迎えに来る約束をする。
しかし夜になっても彼は現れず、代わりに別の者が“彼になりすまして”バスを運転し、主人公を待ち伏せる。
つまり、サージェントは人間として機能する社会的役割を持ちながら、その裏では町の陰謀に加担する者でもある。