円安「ホクホク」ー高市首相の為替発言と「日曜討論」欠席が示した政治姿勢

目次
事件のあらまし
衆院選の最中、高市早苗首相が応援演説の場で行った為替に関する発言が波紋を広げた。
円安が輸出産業や外為特会の運用にとって「助けになった」と受け取られかねない表現が含まれており、市場や世論から円安支持と受け止められたためである。
その翌日、首相はNHKの討論番組「日曜討論」への出演を予定していたが、番組開始30分前に急きょ欠席を表明した。
一方で、同日午後からは岐阜・愛知両県で街頭演説を行っている。
時系列の整理
2026年1月末(正確な日時は不明)
2月1日時点の投稿で、遊説会場で握手した際に負傷したという投稿が行われた。
私の怪我についてご心配をいただいております。ありがとうございます。
実は、ここ数日の遊説会場で、熱烈に支援してくださる方々と握手した際、手を強く引っ張られて痛めてしまいました。
関節リウマチの持病がありまして、手が腫れてしまいました。
急遽医務官の方に来ていただき、お薬を塗っていただき、しっかりテーピングもしていただきました。
今日も皆様に自民党の政策の大転換についてお届けするべく、岐阜、愛知に伺います。午前10:53 · 2026年2月1日
2026年01月31日(土)
神奈川県川崎市内での衆院選の応援演説を行った。
そこで問題とされている発言は以下の通り。
国内投資がとことん低い。だからよその国は今もう何をしているかって言ったら、海外に投資してるんじゃなくて、自分の国内に投資をする。自分の国内で工場をつくる。自分の国内で研究開発拠点をつくる。だから、自分の国内で投資をしているんです。ここは日本は弱かった。ガラッと変えようとしてます。高市内閣で。
だって為替変動にも強い経済構造をつくれるではないですか。国内でつくるんだから。為替が高くなったが、それがいいのか悪いのか、円高がいいのか、円安がいいのか、どっちがいいのか、皆わからないですよね。
むかし、民主党政権の時、たしかドル70円台の超円高。日本で物をつくっても輸出しても売れないから、円高だったら輸出しても競争力ないですよね。日本の企業、海外にどんどん出ていっちゃった。
それで、失業率もすごい高かった。そっちがいいのか。今円安だから悪いって言われるけれども、輸出産業にとっては大チャンス。食べ物を売るにも、自動車産業も、アメリカの関税があったけれども、円安がバッファーになった。ものすごくこれは助かりました。
円安でもっと助かってるのが、外為特会っていうのがあるんですが、これの運用、今ホクホク状態です。
だから円高がいいのか、円安がいいのかわからない。これは総理が口にすべきことじゃないけれども、為替が変動しても強い日本の経済構造を一緒に私はつくりたい。だから国内投資をもっと増やしたい。そう思ってます。
ちなみに19時から英国の首相と首脳会談を行っている。
2026年02月01日(日)
午前
高市首相、NHK討論番組を急きょ欠席 「遊説中に腕痛め治療」 | 毎日新聞
首相動静としては、以下の通り。
午前8時20分から同9時59分まで、公邸で医務官。手の治療。
正午前
Xにて弁明を行う。
昨日の個人演説会での私の為替に関する発言について、一部報道機関で誤解があるようです。
私は、円高と円安のどちらが良くてどちらが悪いということはなく、「為替変動にも強い経済構造を作りたい」との趣旨で申し上げました。
つまり、日本の「供給力」を強くするための国内投資の必要性を述べました。まず、為替を含めた金融市場の動向については、政府として常にその動向を注視しておりますが、個人演説会でも申し上げた通り、総理としては、具体的にコメントはしないようにしております。
その上で、かつては急激な円高で国内産業が空洞化し、大きな問題となりました。
足元の円安ではエネルギーや食品など物価高が課題であり、そうした課題に政府として対応すべきなのは当然のことです。
このため、今回、具体的な物価高対策を実施し、早期執行に努めています。円安が経済に与える影響については、一般論として、
・輸入物価の上昇を通じて、国民生活・事業活動の負担を増加させるといったマイナス面がある一方、
・国内投資が進み、国内で生産した製品が海外に輸出しやすくなることを通じ、企業の売上げが改善し、外為特会の外債の運用等、利子・配当などの海外からの収入も改善するといったプラス面もありますので、その旨を申し上げました。私としては、あくまで「為替変動にも強い経済構造を作りたい」との趣旨を申し上げたのであり、一部報道にあるように「円安メリットを強調」した訳ではありません。
私の真意をご理解いただけますと幸いです。午前11:35 · 2026年2月1日
午後
岐阜県可児市で街頭演説。
以降、街頭演説が続く。
発言内容と弁明
問題とされた演説では、首相は国内投資の拡大を訴え、為替変動に強い経済構造の必要性を説いた。
その過程で、過去の円高局面では輸出競争力が低下し企業が海外に流出したこと、現在の円安が輸出産業や外為特会の運用にとって「助けになっている」ことを具体的に挙げた。
この発言を受け、首相はX上で弁明を行い、「円高と円安のどちらが良い悪いという趣旨ではなく、為替変動にも強い経済構造を作りたいという趣旨だった」と説明した。
為替水準について総理が具体的に言及すべきではないという原則を踏まえ、国内投資による供給力強化を主眼とした発言だったと整理した形である。
討論番組欠席が残した印象
しかし、この説明が出た直後に予定されていた生放送の党首討論を欠席したことで、事態は別の局面に入った。
「日曜討論」は編集や言い直しが利かない場であり、為替発言の真意、物価高への認識、さらには旧統一教会をめぐる報道など、首相自身の言葉で説明されることが期待されていた。
実際、他党の党首からは「本来この場で首相に問うべきだった」との指摘が相次いだ。
負傷や体調不良そのものを疑うことは慎むべきである。
しかし政治的に見れば、問題発言の直後という最も不利なタイミングで、厳しい検証が行われる場を欠席しつつ、街頭演説という一方向的な発信は継続したことは、「説明責任から距離を取った」と受け止められても不思議ではない。
結果として、為替発言の真意が本当に中立だったのかという疑念を、かえって強める形となった。
市場への影響と今後
2月2日の円相場については、首相の為替発言を受けた円安圧力が指摘されている。
高市氏発言で円下落、介入観測後退-「レートチェック」後の上げ半分に – Bloomberg
トランプ大統領によるFRB議長人事など、他の要因も影響しているが、首相発言が市場に与えた心理的影響を完全に否定することは難しい。
為替の水準そのものではなく、為替変動に耐えうる経済構造を作るという主張は、政策論として一定の合理性を持つ。
しかし、その主張を裏付けるためには、都合の悪い場を避けるのではなく、公開の討論の場で正面から説明する姿勢が不可欠だ。
今回の欠席は、為替をめぐる発言内容そのもの以上に、首相の政治姿勢そのものが問われる結果となった。
今後の円相場の動向とともに、説明責任の果たし方が引き続き注視されることになる。