漫画「君たちはどう生きるか」を読んで
表紙になっているこの少年の眼光が発売当初から気になっていたのだが、売れている本は読みたくないという反骨精神ゆえ、今頃になって読むことになった。
漫画であるため、短時間で読み切れたので感想を書きたい。
原作
原作は小説であり、初出は1937年らしい。
そのため、「支那」や「土人」など、中国人が怒り出しそうな、マズイ表現が使われている。
これは巻末でも振れられている通り、原作を重視するため、当時の表記を用いているそうだ。
注目すべきは戦前に書かれた作品だと言うことだ。
あらすじ
中学生のコペル君の近所に、母親の弟である「おじさん」が引っ越してくる。
コペル君が日常や学校生活で感じたことを、おじさんと会話する。
それをおじさんが、後にコペル君が読んで思い返すために、ノートでコペル君の考えを補完し書きためていく。
感想
漫画版ではあるが、本書の主張は以下の通りである。
- 自己中心的な考え方はやめて、他者を尊重する。
- 生き方は偉人の思想や哲学を学びつつも、実感し自分で考えることが最も大事である。
- 人類に貢献する偉大な発見は、学問を極めなくては出来ない。
- 貧乏でも高潔で高い見識を備えた人は偉い。
- 社会を支える生産者・労働者は立派である。
- 偉大な人は人類の進歩に貢献した人だけだ。
- もともと人間は憎しみや敵対で不幸や苦痛を感じるので、それらは人間本来の性質ではない。
児童文学として出版されただけあって、小・中学生向けの内容になっている。
概ね道徳や倫理の教育としては良いと思う。
一方で「人類への貢献」というテーマを多く取り上げられているが、志した全員が偉大な発見して歴史に名前を残せる訳ではない。
少年少女に夢を与えるという点では良いかもしれない。
しかし現代において理想と現実の乖離が大きい。
必死に勉強をして優秀な大学に入り、研究者を志しても、ポストドクターという不安定な身分で生活に困窮している人がいる。
自分の希望する分野の仕事が出来ず、不相応な仕事に就いている人もいる。
「失敗しても、幸せに生きているなら良い」というフォローが本書からは見出せなかった。
もう一つ、争いによって人間は苦痛を感じるので、それは人間のするべきものではないという考えを披露している。
前向きで貴いと思うが、それは一種の信仰というか宗教に近い。
いじめたり他者を貶めることで、満足感や達成感が満たされたと感じる人間も間違いなく存在し、それも少なくはない。
それゆえヘイトスピーチは存在し続けており、誹謗中傷はなくなることはない。
小・中学生が読む分にはよいが、大人がこぞって読む理由はあまりないというのが感想である。
余談
最終的におじさんが死ぬ衝撃的な展開を予想していたが、普通に終わってしまった。