本「海上護衛戦」

夕張 (軽巡洋艦)「出典File:Yubari n09957.jpg – Wikimedia Commons

大井篤氏が書いた「海上護衛戦」を読んだので、その感想でも綴ろう。

 

新版の前書きには次のように書かれている。

太平洋戦争という民族的大悲劇は、決して天災ではなく、全くの人災だった。

とあるとおり、本書は太平洋戦争に対して、批判的な立場から考察されている。

この本の著者である大井篤氏は、海上護衛総司令部参謀という立場で、どのように通商保護が行われてきたのか、目の当たりにされた方である。

当時の雰囲気が伝えつつ、具体的な数字も交えながら、時系列で批評を行っておられた。

大井篤 – Wikipedia

 

Second_world_war_asia_1937-1942_map_de「出典(File:Second world war asia 1937-1942 map de.png – Wikimedia Commons)」

通商保護、つまり海上護衛がどれほど重要であるかだが、地図を見て頂いたら分かるとおり(というか日本人ならば知っての通り)、日本は島国である。

日本は島国であるため資源が乏しく、資源を国外から海上を経て運び込み、国内で加工した後、再び国外へと運び出す(もしくは国内で消費する。)

これは日本が島国である以上、仕方のないことであり、海上封鎖は、未だに現代においても日本に対して有効であることは明白だろう。

しかしながら、太平洋戦争中は海軍省や聯合艦隊を初め、海上護衛の重要性を軽視していたと、本書で大井篤氏は訴えている。

必要な艦艇は聯合艦隊から、引っ張ってくるしかないのに、当の聯合艦隊は艦隊決戦の一点張りである。

十分な艦艇を海上護衛に回さず、数少ない旧式の駆逐艦と海防艦で賄うしかなかった。

また海上護衛がいかに地味で、大変な任務であるかも以下のように記述されている。

そのくせ、敵の潜水艦などに攻撃を受けたら、三日でも四日でも、これに取り組んで、敵をやっつけるまでヘトヘトになりながら戦いつづけねばならない。困ったことに、潜水艦などというものはなかなかつかまるものでもないし、また、はたして仕留め得たのかどうかということも、ハッキリしないことが多い。

それゆえ若くて、優秀な人材は皆、華やかな聯合艦隊の勤務を志願し、海上護衛に参加したのは予備役の年配の指揮官がほとんどだったという。

 

本書はタイトルにも取り上げたが、「血湧き肉躍らざる戦記」とある通り、読み終えて確かに言い得て妙だと感心した。

まるで盛り上がらない、ただでさえ物量で負けているアメリカに対して、守り、つまりは海上護衛を行わず、無駄に通商や輸送船を沈められたのだから、負けるしかなかった。

戦争を美化するつもりも、擁護するつもりもないが、まさに人災であり、人、組織が引き起こした大事件という事に尽きる。

悔しさも募る事ながら、それを書いた大井氏の胸中は、読者のそれとは比べるべくもないのは想像出来る。

現在、自衛隊の在り方が問われている中、多くの人に国防という点で、是非とも一読してもらいたい一冊だと思う。

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